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福岡地方裁判所 昭和43年(ワ)334号 判決 1969年8月26日

原告 松原カズヱ

右訴訟代理人弁護士 鍛冶四郎

被告 松田玉一

<ほか一名>

右両名訴訟代理人弁護士 斉藤鳩彦

主文

一、被告松田政夫は原告に対し金二五万円を支払え。

二、原告の、被告松田政夫に対するその余の請求、被告松田玉一に対する請求は、いずれも棄却する。

三、訴訟費用は、これを四分し、その一を被告松田政夫の負担とし、その余を原告の負担とする。

四、この判決は、第一項に限り、仮りに執行することができる。

事実

第一当事者の求める裁判

一、原告

被告らは連帯して原告に対し金一五〇万円を支払え。

訴訟費用は被告らの連帯負担とする。

第一項につき、仮執行の宣言。

二、被告ら

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

≪以下事実省略≫

理由

一、(内縁関係の存在)

≪証拠省略≫を総合すれば、原告と被告政夫は一緒に、昭和四一年一二月頃、訴外河田一弘宅を訪れ、河田夫妻に対し、両人の媒酌方を依頼したこと、右依頼は、後日仲人をしてほしいというものであり、その場で結婚式が挙行されたものではないが、原告と被告政夫とは、その時より相当以前からすでに肉体関係を結んでおり、又、右訴外河田一弘が、原告には夫も子供もあることを何回も両人に言って聞かせても、両人の結婚したいという意思は変わらなかったことを認めることができ(る。)≪証拠判断省略≫

右認定事実によれば、原告および被告政夫が、一緒に、昭和四一年一二月頃、訴外河田宅を訪れた時点において、両人に、内縁関係を成立させようとする合意が存在したことを認めることができる。

次に、内縁の事実が認められるか否かにつき判断するに、原告、被告政夫各本人尋問の結果によれば、原告と被告政夫とは○○○市○町○丁目一八番地の一の被告の営む不動産業の事務所兼住居、同市○○町八五番地○○生命保険相互会社○○○駅前営業所二階の原告の住居の双方に互に往き来し、そこで肉体関係を結んでいたという事実を認めることができ、右認定を覆すに足りる証拠はない。そうすると、夫婦は通常、単一の住居において同棲生活をするものであるから、右認定事実をもって同棲生活と認めるかどうかは一つの問題ではあるが、原告本人尋問の結果によれば、原告と被告政夫とが一緒に訴外河田宅を訪れたころまでは、原告は未だ、戸籍上訴外大谷和男の妻であり、保険外交員をしながらその子供を扶養していたことを認めることができ、右認定を覆すに足りる証拠はないのであり、以上の事実に、両人の仕事の性質、離婚後も、暫くの間は人目をはばかる気持をもつのが世間一般のつねであることその他諸般の事情を総合すれば、本件のような生活の仕方も同居生活の一つの形態と認められ、従って、原告、被告政夫間には内縁の事実が存在したと考えるのが相当である。

二、(内縁の不当破棄)

一、で認定した事実に、原告本人尋問の結果を総合すれば、被告政夫が昭和四二年五月二八日頃、○○○市○町の自宅を家出し、同被告の父たる被告玉一の許に戻り、原告、被告政夫間の内縁関係が終了したこと(被告玉一が被告政夫の父であることは当事者間に争いがなく、昭和四二年五月二八日頃、被告政夫が右自宅を去って被告玉一の許へ行ったことは被告政夫も認めるところである)、被告政夫が、右家出の後、原告が被告政夫より年上であり、子供もあるからという理由で被告玉一が強く反対するため、原告に対し、爾後夫婦関係を断絶する旨を申し出たこと(手を切るという意味で、別れる旨を原告に対し申し出たことは被告政夫もこれを認めるところである)を認めることができ(る。)≪証拠判断省略≫してみると、原告が被告政夫より年上で、かつ、子持ちであるということは、被告政夫において同棲以前より承知していたことは同被告も自認するところであるから、このことのみを理由として、内縁関係を一方的に解消するに至った本件の場合は、何ら正当な理由に基くものであるとはいえず、従って、内縁関係の不当破棄として、被告政夫は、右不法行為によって原告が蒙った精神的損害を賠償する義務がある。

三、(慰藉料の額)

そこで、進んで被告政夫が賠償すべき慰藉料の額について判断するに、≪証拠省略≫を総合すると、原告が、昭和四二年二月頃、被告政夫の子を懐胎し、同被告も昭和四二年六月四日、右の子を認知する旨書面を作成したこと、原告が、昭和四二年八月二〇日、母体の危険を避けるため、妊娠六ヶ月で右の子を人工死産したこと、原告が、昭和三九年九月以来、○○生命保険相互会社○○○駅前営業所長として普通の生活をしていること、被告政夫が、現在は○○電機株式会社の工員として勤務しており、資産として家を一棟所有していること、他方、原告と被告政夫とが肉体関係を結ぶこととなった発端が、昭和四〇年三月頃、原告が、夫および二人の子供があり、しかも被告政夫より八年も年上であるにもかかわらず、被告政夫を飲み屋に誘い、一緒に飲んでいた原告の友人を被告政夫の運転する自動車で、その自宅まで送り届けた後ドライブに誘い、その途中で誘惑的な言葉を用いて同被告を魅了し肉体関係を結ぶ約束をするに至ったことにあること、原告も当初は火遊びのつもりであったこと、両人の同棲生活が、当初はいわゆる重婚的内縁関係であったこと、同棲期間が約半年にすぎないこと、原告には、過去にも数回堕胎をなした経験があることが認められ(る。)≪証拠判断省略≫以上の認定事実に、本件内縁が破棄されるに至った前示事情その他諸般の事情を考慮すると、原告に対する慰藉料は金二五万円が相当である。

四、(被告玉一の責任)

原告は、被告玉一に対しても、同被告が被告政夫が原告を入籍し爾後も夫婦関係を継続することに強く反対し、よって被告政夫をして本件内縁を破棄せしめたとし、共同不法行為者として、慰藉料の請求をしている。よって、右主張について判断するに、被告玉一が、原告と被告政夫との婚姻にあくまで反対するとの意見を述べたことは前記認定(二)事実から推認できる。しかし、原告が、被告政夫より八年も年上であり、また、すでに婚姻の経験があり、しかも二人の子供の母親であるという事実に鑑みれば、被告玉一が右両人の婚姻に反対の意見を述べることは、被告政夫の親として至極もっともなことであり、被告政夫が既に成人に達した独立の社会人であることを考え合せると右事実をもって、直ちに被告玉一の行為が違法性を帯びたものであるとはいえない。右事実以外に被告玉一につき、強迫その他の違法行為の認められない本件においては、同被告に慰藉料の支払を命ずべき理由はない。

五、(結論)

以上により、被告政夫は原告に対し慰藉料金二五万円を支払う義務があるので、原告の本訴請求は右の限度で理由があるからこれを認容し、被告政夫に対するその余の請求、被告玉一に対する請求はいずれも理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条、第九二条本文、仮執行の宣言について同法第一九六条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 安東勝)

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